嶋田知的財産事務所

業界のあるべき姿に立ち返る

奥野と伊藤は、若くして独立し、海外出願の低価格化に取り組む職人弁理士である。低価格化の方法にマジックは無い。高い能力を磨き、細やかにコストを抑える地道な努力を続ける。奥野の経営思想と伊藤のタフな頭脳がこの枠組みを支える。

「今の弁理士業界はあるべき姿から離れています。」奥野は言う。特許権などの知的財産権は、特許庁とのやりとりや権利の管理など、長期間のメンテナンスが必要だ。クライアントは一度選んだ代理人をコロコロ変えられない。それにあぐらをかいて、本来あるべき顧客利益の最大化に汗が流されていないことを問題視する。年配の所長弁理士が利益の3割近くをとり、4割程度が高コストな経費に浪費され、残りの3割を所員の弁理士や特許技術者(明細書を書く専門の人)に配分しているのが多くの特許事務所の実態だと見ている。奥野はこの収益構造にメスを入れた。

奥野の経営方針は明快だ。所長の取り分を抑え、所員の取り分を増やし、皆で一生懸命働く。一人ひとりの弁理士が職人としてクライアントからの信頼を得て、汗を流した分だけ報酬を得て生計をたてるという1960年代以前の古き良き時代を理想とする。

質を高く保ち、かつ経費を節減するために、海外事務所への丸投げはしない。海外の行政機関とのやりとりも、自分たちでできる手続きは自分たちで行う。翻訳も自分たちでチェックして、各国の権利範囲をきちんと確定させる。一人の弁理士がカバーする技術分野はとても広い。

伊藤は言う。「発明は弁理士の専門分野ごとに生まれるわけではありません。機械を開発している現場で、潤滑剤の発明が生まれるし、それを制御するソフトウェアの発明も生まれます。弁理士は技術分野を広くカバーできたほうがいいです。」

伊藤は1年間、日夜を問わず徹底的に勉強し、弁理士試験に一発合格した経歴を持つ。一年間で4000時間以上勉強したという。「忘れるより早く頭にインプットすると、それがつながってどんどんわかるようになる。」この勉強のやり方は仕事も同じ。大量の情報を短時間に頭に叩き込む集中力とその大量の情報から全体像をすばやく把握する力が、伊藤を万能の特許職人にしている。今や日本語、英語のみならず、数ヶ国語を理解し、技術分野も問わない。一人で何人分もの仕事がこなせる。

奥野は言う。「形の無いものにたくさんお金を投じる現代社会は異常だと感じるんです。」対価は、本当に流した汗の量に比例しているのだろうか?本来あるべき姿からかけ離れた資本主義のいびつな構造が、働く必要の無い人を働かせ、それを搾取する構造を再生産しているのではないかと危惧している。

奥野彰彦 弁理士(SK特許業務法人 代表社員)
サントリー株式会社、深見特許事務所、プライムワークス国際特許事務所、大野総合法律事務所、園田小林特許事務所を経て2008年S&K特許事務所を設立。
伊藤寛之 弁理士(SK特許業務法人パートナー弁理士)
株式会社キーエンス、野河特許事務所、米国留学(ワシントン大学ロースクール)等を経て、2009年10月より現職。