嶋田知的財産事務所

実物に触れ、作って動かす

大武は「共想法」という認知症予防法を独自に開発し、NPO法人「ほのぼの研究所」の代表理事としてこの普及と発展に尽力する東京大学の准教授である。ロボット工学の研究室出身で、人間の思考プロセスやそのメカニズムにずっと興味を持ってきた。

「実物にさわれ」「動かせ」大武が大切にしている言葉である。
「で、それは動いたの?」・・・彼女の指導教官(井上博允先生)は、理屈をいくらプレゼンしても、動くものを作って見せなければ認めてくれなかった。大武の研究に対する姿勢の原点はここで形成された。

大武が認知症予防の研究にとりくむきっかけは、認知症の祖母との会話だった。認知症患者の頭の中で起こっていることに強く興味を持った。しかし、その時点では必要な知見が集まらず、全体像が見えなかった。「わからないときは、実物に触れながら考えよう!」大武は、独自に開発した認知症予防法「共想法®」の実践研究拠点(ほのぼの研究所)を設立し、実際に認知症の現場に入っていくことにした。

共想法は、参加者が日常生活の中で撮影した写真を持ち寄り、それについて参加者が交互に会話する場を提供する。話す、聞く、記憶する、思い出す、といった人間の知的活動がバランスよく発揮されるように設計されており、認知症の発症を遅らせる効果があるといわれている。認知症予防以外への応用も期待されている。

考えることを避けない生活習慣を楽しく身につけることが、共想法の原点。これは、認知症予備軍の高齢者に限らず大切なことだ。大武の研究・実践は共想法の趣旨に賛同する多くの市民ボランティアと共同で進められる。実物に触れ、作って動かすための工夫の積み重ねや問題意識の発見の場をこの市民ボランティアと共有している。

大学人の存在意義は、研究成果を出すことにとどまらない。市民と一緒に実物に触れ、作って動かす。社会の中で進める研究の醍醐味を、大武は日々実感している。

大武美保子(東京大学人工物工学研究センター 准教授)
2006年より現職。2007年7月に認知症に関する諸問題を解決する科学技術社会システムの研究拠点「ほのぼの研究所」を設立。翌年NPO法人化。同研究所長と代表理事を務める。

著書:介護に役立つ共想法(中央法規)2012/1/1(facebookページ