単独では到達できない物語づくりを目指して
田村は高い表現力が注目される新進気鋭の映像作家である。映画だけでなく、ドキュメントムービーやプロモーションビデオの制作においても、物語の構成と映像表現が巧みに組み合わされ、観る者を惹きつける。
田村の目線は、作品を観る人であり、映像制作を田村に依頼する人ではない。全てを任せてくれない人とは仕事をしない。依頼者の自己満足で終わる映像を作りたくないからだ。伝えたいことがあっても、伝わらなければ意味が無いと考えている。映像は万能のツールでは無い。
田村は、子供の頃から脚本を書き続けてきた。小学校の国語の授業で「ごんぎつねの続き」を書いてすごく褒められたことを今でも覚えている。溢れ出る物語の発想がいつも止まらなかった。
大学生の頃から、形になるものが作りたくて映像を撮り始めた。一般公開映画を二本撮った。その二本目で、更なる飛躍を期して著名なタレントの出演を前提に立てた企画が、タレント側の事情で潰れてしまう。幸い借金は背負わなかったものの、田村は出演者で動員数を稼ごうとした自分の作品作りを猛省した。
そこから、映画作りを一旦離れ、独学で映像表現を基礎から徹底的に勉強した。脚本や編集に関する本を読みあさり、ノートを作って学習したことを書き綴っていった。グレーディング、VFX、トラッキングなど、技術ごとにタグをつけながら最新の参考作品を収集した。ここで培った映像制作のための“システム”は、今も自分の仕事を支えている。
最初の挫折から、誰にも頼ること無く、たった一人で最高の映像を生み出せるようになろうと努力を重ねてきた。独立し、様々な作品と相対する今、一人では辿りつけない領域を目指し始めている。様々な映像技師、作曲家、デザイナー、そして様々な依頼者と共に作品を作りながら、単独では決して表現できない物語を描くことに、今はただ心を踊らせている。【2014年12月24日 取材】
田村祥宏 (EXIT FILM株式会社 フィルムディレクター&取締役)
フリーの映画監督、映像制作会社を経て2012年7月に独立。2014年8月にEXIT FILM株式会社を設立して以来現職。サイエンスアゴラ2014キーノートセッション、Tomodachi Initiative、Ted x Kids@Chiyodaのプロモーションビデオ等、幅広く活躍中。